ゆびぬき。
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2015/04/02(Thu) 21:42 水尾と今井、2。山田エズミ  

「なんでそんなにピーマンを凝視するの」

「ぴかぴかだから」

「ワックスだよ」

「車の?」

「んな訳ねえだろ」

「体に悪くないかな」

「天然だから。おまえもだけど」

「買わないどこ」

「こら、魚をぎゅーぎゅー押すな」

「新鮮みたい」

「押したら判るのか?」

「判んないけど」

(スーパーマーケットにて――中学一年)

 

「足引き摺って、どうしたんだ」

「階段から落ちた」

「突き落とされたのか」

「ぼーっとしてて足踏み外した」

「前見えてないんだろ、髪切れよ」

(学校にて――中学二年)

 

「なんか生傷絶えないけど、これはどうしたの」

「火傷したみたい」

「したみたいって、どう謂うこと」

「気がついたら水ぶくれが出来てて、ゆうべ皮が破けた」

「……何で火傷したんだよ」

「たぶん、湯を沸かした時にその湯気で……」

「そんなもんで火傷するか?」

「鍋の蓋開けた時に、ぶわーっと」

「気をつけろよ」

「うん」

(学校にて――中学三年)

 

「女にナンパされた」

「何処で」

「煙草吸いに行った駐輪場で」

「どんな女?」

「美人だけど変な奴だった」

「どんな風に」

「うーん……。クマゲラみたいだった」

「どんな女だよ、それ」

(アキに声を掛けられた後――高校一年)

 

「だだだ大丈夫か、おい」

「……だだだだだと落ちた」

「冗談云えるくらいなら大丈夫か。上から下まで落ちるなよ、普通手摺に掴まるとかしないか」

「いやー、落ちてる間、なんかスローモーションみたいだった」

「スローモーションなら途中で手摺掴めって」

「あ、尻が痛い……」

「おまえ、ほんとに鈍いな」

(学校の階段――高校二年)

 
「切符買わないと」
「………」

「此処に金入れて。切符と釣り銭取って」

「わっ」

「なに」

「手まで持ってかれるかと思った」

「……切符取って」

「電車、めんどい」

「自転車じゃ行ける範囲が限られるだろ」

「遠いとこ行かない」

「どんだけ消極的なんだよ」

(はじめての地下鉄――高校三年)

「おい、財布落としたぞ」
「え、ほんと?」
「ポケットに入れ損ねるなんて、尻に神経通ってないのか」
「通ってるよ」
「金は命より大切だろ」
「ひとを守銭奴みたいに云うな」
「いや、そう謂う意味じゃなくて、おまえは色々出費があるから」
「だからって命より大切じゃねえよ」
「まあまあ、そうこだわるな」
「命より大切なのは明日の飯だ」
「腹減ってるのか?」
(大学構内にて
――大学一年)

 

「どうした」

「蜘蛛が蟲喰ってる……」

「どれ、あーほんとだ。グロいなあ」

「どっかやって」

「ちょっと待って……。あ、そっち行った」

「なんでー」

「大丈夫だって、人間齧ったりしないから」

「蟲のやることなんか判ったもんじゃねえ」

「殺すか」

「やめてー」

(部室にて――大学二年)

「便所行ってくる」
「水ばっか飲むからだよ。って、そこ女便所だから」
「あ」
「だから、なんで判ってて入ろうとするんだよ」
「足が向いてるから」
「足が向いてたら何処でも行くのか、おまえは」
「駄目か?」
「当たり前だろ。通報されるぞ」
(大学の便所前にて
――大学三年)

 

「作れるけど味見が出来ない」

「してやるよ」

「途中でひとに味見されるのは厭」

「酷い味にならなきゃいいよ」

「どれくらいが酷いか判らん」

「これまで作ったのは旨かったからいつも通りにやれば大丈夫だろ」

「……色で判断する」

「塩や味醂入れて色で判るのか?」

(今井の部屋に移って二度目の調理――死後一週間)

 

「どうした」

「……アイロンが足に落ちた」

「痛いの?」

「痛いよ」

「火傷は?」

「熱いの判んないから」

「なんともなってない様だな。幽霊ってのも便利な様で不便だなあ」
「女風呂とか覗けんしな」
「覗きたいのか」
「いや、女の裸は一生分見た」
「……行っても二、三十人くらいだろ」
「その倍くらいだと思う」
「まじかよ」
「んー、アキの居なかった日が……」
「数え直さんでいい」
「二十年しか生きてなくて、風俗行った訳でも職人の裸見た訳でもないのにその数行く奴は先ず居ない」
「職人ってなんだよ」
「ストリッパーとかポルノ女優とか」
「今時ポルノ女優とは云わんぞ」

(今井の部屋にて――家政婦状態の時)

 

「肉料理作らないねえ」

「肉は……腐ってる」

「なんで」

「色が腐れてる」

「……どこが」

「何う見てもピーーの色だ」

「肉屋に謝れ」

(スーパーマーケットにて――幽霊一年目)

 

「(蒟蒻を手にして)これはぜんぜん違う」

「何の話だ」

「感触。温めれば近いか」

「何云ってんだよ」

「ああ、知らないか(本物しかやったことがない男)」

「何を(本物とはやったことがない男)」

「なんでもない」

「肩が笑ってるぞ」

(今井の部屋にて――男だったら察しがつくだろう、蒟蒻手にしていたら)

 



水尾は車の運転が出来ないので、クラッチとブレーキとアクセルペダルの区別がつかない。そもそも何うやって発進させるかを知らない。自分自身の車幅感覚も把握しておらず、しょっちゅう何かにぶつかる。そして躓く。
更に扉や抽き出しによく指を挟む。
傘を閉じる時も必ず親指の腹を挟む。
物をよく落とす(何故か料理をしている時は落とさない)。
痛さを長いこと感じなかったので、痛い時とっさに声が出せず、絶句して踞る。
ひとの相手をしていないと放心するので、記憶力が非常に悪い。自分の云ったりしたりしたことも殆ど覚えていない。
頭はいいのだが理数系は苦手で、3258を三百二十五十八と読んだことがある(理数系が苦手と謂う範疇ではない様な気がするが)。
動体視力がない。
瞬きをしておいて、一瞬停電したと思ったことが何度もある。
菊代やエミを疲れる娘だと云っているが、今井の方がもっと疲れていただろう。まあ彼は疲れてもそこが可愛いと思っていたのだが。
こんなどんくさい奴は長生きしなくて良かったのかも知れない。
しかし、幽霊になってからエロいことばかり云っているが、顔は女性的で見方に依れば可愛いとさえいえる(來河池などは「乙女か」と思った)のだから最悪である。黙ってろよ。
尚、水尾の隠れた名言(迷言?)の中には「男に乳首は要らんだろ」がある。感じなかったらしい。

子供の頃は親父にぼこぼこにされ、高校から大学一年の夏休みまでは女地獄で(大学時代は「出張サービスみたいなもの」と本人が云っている)、最後につき合ったのが子供にしか見えないエミだったと謂う歪んだ人生からすれば人格崩壊しても仕方がないが、この壊れっぷりは行き過ぎだろう。



 




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