ゆびぬき。
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2015/03/31(Tue) 20:50 水尾と今井。山田エズミ  

 さて、水尾と今井のことである。

 何も大学に入ってそこの変人野郎が「ホモだち」と指摘しなくても、周囲の人間は彼らを「異様に仲がいい」と思っていた。実際、物凄く仲が良かったのだから仕方がない。アキも、その仲の良さに当てられていた程だった。なにしろ、アキが見ると大抵廊下で喋っていて、それが所謂「壁どん」状態だったのだから。彼女に気づくと水尾は軽く手を振るのだが、今井はその手首を掴んで降ろさせ、もの凄い目つきででアキを睨みつけていた(「悲しくてやりきれない」で、アキが「親の仇でも見る様な目つきで睨みつけてた」と云っている)。

 が、断っておくが、彼らはそう謂った関係ではないし、そう謂う感情もなかった。本当に仲がいいだけの、親友だったのだ。なんとなく、水尾と今井は揃ってゲイだったら、恋人だったら一番しっくり来ると謂うか、幸せだったんじゃないかと最近思うようになった。然し、思うようには行かないのが「人生」である。

 ただ、水尾は今井にかなり甘えていた様で、言動が彼に対する時だけ子供の様になる。本人はまったく意識していなかったのだが、今井の方はそれが可愛くてよけい保護慾がかられていた。太郎と花子に対しても、ふたりの面倒みる水尾を眺めるのが好きだったという、親失格とも云える部分があった。

 水尾が死ぬまで傍から見ると友人と謂うより恋人同士なのではないかと思われる接し方をしていた訳だが、当然ながら同性愛的な関係にはなく、あくまで「じゃれ合っている」程度。一緒に寝ても当たり前だが眠るだけで何もしなかった。シングルベッドなので男同士にしては有り得ない程密着していたが。

 身長は今井が180センチちょっとで水尾が175センチと、ふたりとも背は高い。部室で抱きあげられたりしたが、49キロと軽いし、今井はアルバイトでスーパーマーケットの商品の積み降ろしなどをやっていたので力はある。水尾が今井を若干見上げる恰好になるのだが、水尾は猫背だし廊下で喋って居る時は水尾が壁に凭れて少しずり下がって居るものだから、10センチくらいの差があった。然も相手を首を傾げて見る癖が水尾にはあったので、可愛らしくも見えるだろう。水尾の癖は他に前髪をかきあげる、膝を抱えると謂うのがあるが、膝を抱えて首を傾げたりすると可愛さ倍増になるらしく、ショーコさんにもよくそう謂うことをしていた。そりゃ気に入られるだろう。

 水尾の外見は細面で色白で眉が薄く目が大きい。日本人離れした目元は西洋人らしいのではなく、どちらかと謂うとインドとかアラブ系。そちら方面のひとは眉が濃いが、水尾は殆どないくらい薄い。髭など生えていないと云ってもいい。濃いのか薄いのか判らない顔で、大人っぽくは見えない。それでぶかぶかでよれよれの襤褸服を着ていたのだから、浮浪児にしか見えない。よく職務質問されなかったものである。

 水尾が今井にどう甘えていたかと謂うと、相手が厭がるのを承知で「カズミちゃん」と呼んだり、膝の上に乗って今井の読んでいる本を一緒に見たり、映画を観る時にはぺたっとくっついて大抵手を握って居た。まあ、今井も水尾の髪の毛をいつも触っていたりはしたのだが。そんなことをして居ればゲイだと勘違いされても仕方がない。

 普段の言動が乱暴なのに、今井には「なんで」(しょっちゅう云った)「そうなの?」(文中では、小山に罵詈雑言を浴びせた後に斯う云っている)「やだ」(これもよく云った)と、子供の様な言葉遣いになる。他の人間には云いきる様に話すのに、言葉を濁すことも多かった。然う謂う時には俯いてしまうので、水尾の顔を見る為に顎に手を掛けて上に向かせることも屡々あり、それを背後から写真に撮られたりしていた。面白がられていたのである。

 何故そんな風に甘えるかと謂うと、やはり父親が無体な暴力を揮い男の愛情と謂うものが判らず、今井は保護者の様に振る舞っていたからだろう。父が親らしいことをしていれば、此処まで今井に甘えることはなかった。母親の愛情も殆ど知らなかったが、女性に対しての包容力はもの凄くあったので、甘えたりはしなかった。そこには母を守り切れなかったという負い目が大きく影響している。その為、アキが何しようがすべて受け止め、酔っぱらって帰って来ても黙って介抱してやっていたのである。

 今井は兎に角水尾を優先してものを考えていたので、アキのことは目の敵にしており、決して彼女を名前で呼ばなかった。エミのことを長く云わなかったことにもかなり気分を害していた。アキに関しては、今井が悪く云うと水尾は庇う様なことを云ったし、エミについてはくどくどと云い訳をした。

 水尾は母親が小学校の後半辺りで家のことが出来なくなってしまったので、家事全般はこなせる。「ワインと枝豆」で服の畳み方をエミに教えられたと云っているが、あれは嘘。自分の為に料理をすることはそんなになかったが、小中学時代は母親の分も含めてちゃんと作っていたし、高校の時は今井の分まで弁当を作っていた。胃弱なので肉料理は殆どせず、今井は水尾のお陰で健康な食生活になった。ひとり暮らしの時は、アパートに居ることが少なかったので殆ど料理はせず、適当に弁当を買ってくるか來河池の部屋からカップ麺をかっぱらって来ていた。アキが料理上手だったので、高校時代は旨いものを喰わせてもらっている。

 よく作ったのは冬だと牡蠣雑炊、白菜と白身魚の蒸し煮、春はゆがいた菜の花をカッテージチーズと白ごま、白みそで和えたもの、新キャベツのザワークラウト(山菜や筍は胃が悪くなるので使わない)、夏は殆どサラダ、秋になると里芋などの煮物。ドレッシングやスープは既成のものを使わない。手の込んだものは作らないが、來河池と同じくらいの腕はしていた。ただ、色々なことに自覚がないので、來河池の調理に感心していたのである。

 肉や米の飯、揚げ物、炒め物は自分からは好んで食さない(何故初子の名前を聞いて「焼き肉が喰いたい」と云ったのか、と謂うと疲労と空腹のあまりであったと思われる)。この殆ど精進料理というか菜食に近い食生活で、ひとり暮らしを始めてからは肉体を酷使しているので筋肉もついて基礎代謝量が増え、見た目が更にほっそりしたが、体重は変わらなかった(筋肉は重いので)。

 酒は強いが、胃に悪いのでビールは飲まない。アキはビールを飲むのだが三杯で酔っぱらってしまう。今井は取り敢えずビール派。肉が好きだったが、水尾に改造されエミと結婚する頃には肉が嫌いになっていた。お陰で今井は高血圧にも糖尿病にもならずに済んだ。エミは料理を母親に教えてもらったが、今井と結婚するにあたり好みを水尾に訊いている。水尾はエミの料理を食べることはなかった。

 料理の上手い男、と謂うのはそれだけで株が上がる。來河池は料理が趣味だし、亮二も結構出来る。車折も母親が居なかったので出来る。和食ばかりだが。家事すべて、となると、水尾が一番出来ることになる。男にしておくのが惜しい程である。恐らく、今井もそう思っていたのだろう。

 幽霊になってから今井のアパートのものだけ触れることから、家政婦の様なことをしていたのだが、最初に作ったのはキャベツと卵とハムの炒め物(それしか食材がなかった)。味つけはひと袋残っていたカップスープのコンソメと胡椒。その後作ったもので今井が気に入ったのは、

 韮と蝦の餃子、豆腐とおろし蓮根のハンバーグ、蟹団子と青梗菜のあんかけ、大和芋と豆腐の精進焼き、白身魚と茸のホイル焼き、葱のオリーブオイル漬け、アボカドと貝柱(刺身用)と押し麦の檸檬サラダ。徐々に肉から遠ざけているのが判る。葱の油漬けはバルサミコ酢と板昆布、岩塩、ホールの紅胡椒が使われてるもので、今井は酒の肴にしていた。

 しかし、女でも作らない様なメニューである。健康的にもなろう。

 ついでレシピを書いておこう。

 ニラと蝦の餃子>韮はみじん切りにする。蝦は背わたを取ってさっと茹で、みじん切り。韮と蝦をボールに入れ、片栗粉を振り入れ粘りが出るまで捏ねる。餃子の皮で具を包み、テフロン加工のフライパンに薄く油をひき、餃子を中火で焼く。焼き色がついたら水を鍋肌から入れ、蓋をして蒸す。

 豆腐とおろし蓮根のハンバーグ>豆腐は手でざっくり解して水を切る。豆腐におろした蓮根を混ぜ、片栗粉と小麦粉を振り入れ、篦で混ぜ合わせる。←を、適当な大きさにまとめ、小判型に整える。テフロン加工のフライパンに薄く油をひき、裏表焼く。同じフライパンに湯で溶いたコンソメ、片栗粉をあけ、水煮グリーンピースを加えとろみがつくまで温め、あんを作る。ハンバーグにあんを掛ける。

 蟹団子と青梗菜のあんかけ>蟹の缶詰を細かく叩く。繋ぎに小麦粉、卵白、擦りおろした山芋を加え、練る。←スプーンで一口大掬い、熱湯で茹で火を通す。青梗菜は表面の葉を数枚取り、根元の方から茹でる。水に昆布だし、醤油、片栗粉、おろし生姜を入れ、加熱してとろみをつける。蟹団子と青梗菜を皿に盛り、あんを掛ける。

 大和芋と豆腐の精進焼き>大和芋は擂り鉢でする。そこへ豆腐を解し入れ、塩、片栗粉を加え、更にする。八等分した海苔に←をスプーンですくって乗せ、半分に折って薄く油をひいて熱したフライパンで裏表焼く。刷毛で片側に醤油を塗る。

 白身魚と茸のホイル焼き>アルミホイルに白身魚と好みの茸数種、輪切りの檸檬を乗せ、昆布だしで割った醤油を廻し掛ける。ホイルを袋状にして閉じ、グリルで加熱する。

 葱のオリーブオイル漬け>葱は白い部分を五センチくらいの長さに切る。薄く油をひいたフライパンで柔らかくならない程度に炒める。オリーブオイルに砕いた岩塩とバルサミコ酢を入れ、撹拌する。オイルに板昆布、粒紅胡椒を入れ、葱を入れた保存容器にひたひたになるくらいに掛ける。冷蔵庫で一晩以上置く。

 アボカドと貝柱と押し麦の檸檬サラダ>アボカドと貝柱は賽の目に切る。押し麦は15分茹で、笊にあける。昆布だしと醤油、バルサミコ酢、オリーブオイルを混ぜ合わせ、ドレッシングを作る。アボカド、貝柱、押し麦を皿に盛り、輪切りの檸檬を乗せ、ドレッシングを廻し掛ける。

 

 こんなものを作ってくれるなら、一家にひとり水尾が慾しくなる。金掛からんし。

 今井のアパートは所謂ワンルームで、水尾が住んで居た夢の島ハイツの様な老朽化はしていない。亮二程ではないが、片づけるのが苦手であった為に、ごたごたしている。それを片づけ、掃除し洗濯をして、畳んで仕舞って、と、殆ど主婦業に近いことをやってあげていたのである。そんなことをしておいてよくエミと結婚して慾しいと云えたものだ。 



料理のレシピは、わたしが適当に考えたものですが、分量さえ口に合う様に作ればちゃんと出来る筈です。ダイエットに向いていると思うので、試してみて下さい。簡単なものばかりです。
そういえば、わたしが創作した人物は少食だったり肉をあまり喰わない奴が多い。ほぼ菜食主義だったのが明良。ホテルに移り住んでからは豆腐と野菜しか食べなかった。玲二はものをあまり喰わない。結婚してからは少ないながらもバランスの取れた食事をしてはいるが。亮二も肉類はあまり食べない。水尾は上に書いた通りである。
肉類を減らすと男性ホルモンの分泌が少なくなり、完全に肉類を断つと、分泌されなくなる。この四人は慥かに男性的な部分が少ない。明良は薬の副作用ではあるが不能だし、玲二と亮二は割と淡白。でも水尾はアキと同棲していたし、そっち方面は盛んだったんだけどなあ。魚は喰ってたからか。







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